愛を教えて ―番外編―
上ふたりがそれぞれの方向に向かい、万里子は絢音を伴いふたたび愛実の部屋に入った。


「絢音ちゃん!」


思ったとおり、愛実は絢音の顔を見るなり飛びついた。

赤いドレスはちゃんと着ていたが、ヘッドドレスを付ける途中だったようだ。


「とっても可愛いですよ。愛実様によくお似合いです」

「そうかなぁ……」


「可愛い、可愛い、愛実は何を着ても可愛いから」

「立志お兄さまに言われたら、“かわいい”がすっごく軽くなっちゃう」


いきなり現れて口を挟んだ四番目の兄の褒め言葉に、愛実は口を尖らせた。


「あら、立志はもう仕度を済ませたの?」

「五人もいるから早く済ませましょうって言われて、俺がトップバッター。式まで二時間もあるってのに……。でも、俺も宗と同じで制服のほうがよかったんじゃないかな?」


タキシード姿の立志は、隣に立つ同じ中学三年生の宗幸仁を指差し、不満たらたらだ。


万里子にとって、この四男坊だけはどうも掴みどころがない。

不真面目な訳ではないのだが、どこか飄々としていて、大人を食った風情のある息子だ。将来、敵を多く作って大変な人生を送るのではないか、と心配でならない。

万里子が答える前に、宗家の末っ子幸仁が立志を諭し始めた。


「それはダメです。私は部外者なので隅にいさせていたくだけですが、立志くんは新郎のご兄弟として参列する訳ですから。ベストマンは結人さんが務めるとしても、ご兄弟で揃えることに決まったんでしょう?」

「それが迷惑なんだ。似合わないんだよ、大柄だけど童顔な俺には。中一の和哉のほうがまだ似合うと思うぜ」


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