愛を教えて ―番外編―
二十五畳ほどの書斎には、バーカウンターが付いていた。

一条は棚からクリスタルデキャンタの容器を取り出す。すでに琥珀色の液体が入っており、それ自体が酒瓶になっているようだ。デキャンタはひと目でバカラ製だとわかる。


「……飲むか?」

「ミシェルカミュのロイヤルバカラですか? 相変わらずXOが好きなんですね」


ため息と共に卓巳は呟いた。


「悪かったな、安酒で……お前にはもうやらん」

「いただきますって」

「その辺のビールでも飲んでろ」


そう言いつつも、一条はグラスを卓巳の前にも置く。

卓巳はカミュの注がれたブランデーグラスを、右手で抱え込むようにして持った。少し回すと、体温で温められたブランデーはまろやかな香りを放ち始める。卓巳は少しだけ口に含んだ。


「まだ……あのままなのか?」

「まあ、そんなとこです」

「だが、結婚は本物なんだろう? でなきゃ、ペアルックは着らんぞ。普通」

「だから、弱ってます。こんなつもりじゃなかったのに……」


ペアルックを茶化されているのだが、会話の内容は卓巳にとって、至って深刻だった。


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