愛を教えて ―番外編―
【露天風呂で愛を教えて】
前編
(まったく! なんでこんな重要な所でミスをするんだ!)
卓巳は社長室のデスクをコンコン指で叩きながら、目の前に立つ男を眺めていた。
首を折れるほど下げ、スーツの背中を丸めて身を縮こませている。
その男はちょうど半年目を迎える秘書、熊谷一平《くまがやいっぺい》だった。年齢は三十歳、卓巳よりひとつ年下で独身だ。
実直だが、秘書としては気弱そうな見た目がマイナスポイントか。言われたことだけを滞りなく行う、という宗と似た面もあった。
ただ、宗の場合は遊び心が満載だが、熊谷の場合は気が回らないだけに思える。
「私はすべて貸し切りにしろ、と言ったはずだが」
「は、はあ……。でも、露天風呂の貸し切りはしておらず、温水プールの貸し切りなら可能と言われましたので……」
「誰が風呂を貸し切りにしろと言った。全館だ!」
「しかし、すでに予約の客が」
「それを考えるのは旅館の仕事だ。お前のすべきことは、その手配を含めた金額を旅館に提示させることなんだ!」
卓巳の叱責に熊谷はおどおどした様子で口を開いた。
「あの……どうやって?」
卓巳は社長室のデスクをコンコン指で叩きながら、目の前に立つ男を眺めていた。
首を折れるほど下げ、スーツの背中を丸めて身を縮こませている。
その男はちょうど半年目を迎える秘書、熊谷一平《くまがやいっぺい》だった。年齢は三十歳、卓巳よりひとつ年下で独身だ。
実直だが、秘書としては気弱そうな見た目がマイナスポイントか。言われたことだけを滞りなく行う、という宗と似た面もあった。
ただ、宗の場合は遊び心が満載だが、熊谷の場合は気が回らないだけに思える。
「私はすべて貸し切りにしろ、と言ったはずだが」
「は、はあ……。でも、露天風呂の貸し切りはしておらず、温水プールの貸し切りなら可能と言われましたので……」
「誰が風呂を貸し切りにしろと言った。全館だ!」
「しかし、すでに予約の客が」
「それを考えるのは旅館の仕事だ。お前のすべきことは、その手配を含めた金額を旅館に提示させることなんだ!」
卓巳の叱責に熊谷はおどおどした様子で口を開いた。
「あの……どうやって?」