愛を教えて ―背徳の秘書―
すべてがスローモーションのように流れた。

やはり、真実だった。そう思う反面、心のどこかで彼を信じ続けていた自分が、雪音は悲しくて堪らない。

踵を返し、階段を駆け下り、来た道を必死で駆け戻った。

たたんだ傘を差すこともせず、白いビニール傘の柄を、雪音は満身の力で握り締めていた。



「雪音っ!」


駅で乗車券を買おうと立ち止まったとき、不意に肩を掴まれた。

宗である。


「誤解だ……頼むから、話を聞いてくれ……お前、足、速過ぎだよ。年寄りをこれ以上……苛めないでくれ」


息も絶え絶えだ。

だが、そんな宗に雪音は手にした傘を振り上げた。


「最っ低! もう絶対に信じない! 二度と近づかないで!」

「ちょ……雪音。待てよ、聞けって」

「聞かない! いっぺん死んでみたら? その節操のない下半身も、性根が入れ替わるんじゃない? ――さようならっ」


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