愛を教えて ―背徳の秘書―
宗は進退窮まり、社内に婚約者のいた女性と関係したことを、卓巳に白状した。


当然、大喝を覚悟していたが……意外に卓巳は静かである。深いため息をつき、遠くを睨んだままだ。


ふいに、宗は数年前のことを思い出す。

女の誘惑にズルズル引き摺られ、身動きが取れなくなった所で手痛い一撃を食らった。

脅迫に強制わいせつの罪まで押し付けられそうになり、見逃してもらう代わりに、認めて謝罪したのだ。

そのときに弁護士の道は断たれたも同然だった。


人は痛い目に遭えば、それに関するすべてを避けようとする人間もいる――卓巳のように。

だが、強姦の被害に遭った女性が、『セックスは大きな問題ではない』と思い込もうと、売春に身を投じるケースもあるという。


宗も似たようなものだった。

十代の興味本位のセックスから、学生時代の恋を経て、大人の恋愛に移行する時期に道を踏み外した。高校時代の懐かしい思い出は見る間に踏み躙られ、少年は男になりそこなったのだ。

一番の相談相手になるべき卓巳は、その手の話は一切受け付けず……。

類は友を呼ぶかの如く、彼の周囲は愚かな男女で賑わった。


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