愛を教えて ―背徳の秘書―
「それは、やめたほうがいいと思うんです」

「どうしてですか?」

「私……実は“厄介な女”なんです。優しくされると調子に乗って、すぐに結婚を考え始めてしまうんです。瀬崎さんのことが好きだから、きっと、夢を見てしまいます。だから、どうかミホさんのこと、幸せにしてあげてください」

「美穂?」

「熱に浮かされて……。ごめんなさい、余計なお節介ですね」

「あの……美穂は昨夜話した大学生の妹の名前ですが」

「……え?」

「今、ちょうどうちに来てるんですよ。僕は六人兄弟で、兄と弟がひとりずつ、妹が三人いまして、美穂は末っ子なんです。すみません、大家族はお嫌いですか?」

「い、いえ」

「それはよかった。ついでに、北海道はお好きですか?」


妹という言葉に安堵した途端、六人兄弟という事実に驚いていた。

そしていきなり『北海道』である。話が飛びすぎて香織はうまく言葉が出てこない。


「ええ、旅行では何度か」

「じゃ、今度一緒に行きませんか? 僕の実家が帯広なんです。家族に紹介させてください」

「……」

「あの、急ぎすぎましたか? 結婚を考えているとおっしゃったので、つい。――ご存知のとおり会社は大変なときです。でも、仕事が忙しい、というのは言い訳だと気づいたんです。僕はあなたに会えたチャンスを逃したくない」


これは何かの罠だろうか?

恵まれない恋を続けてきた香織は戸惑った。

だが、瀬崎の笑顔はとても偽りには思えない。


「瀬崎さん……毎日、お弁当とか作っても迷惑じゃないですか?」

「うれしいです」


瀬崎はにっこりと微笑む。

つられて、香織も笑顔になった。


(もう一度だけ、騙されてみよう。もう一度だけ……)



――季節は間もなく冬になる。しかし、香織の春はすぐそこまできていた。




                        ~fin~


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