愛を教えて ―背徳の秘書―
「え? 松山って」


海外、それもビーチに泳ぎに行こうなどと言っていたのに、百八十度方向転換だ。

雪音がパスポートを持っていないと言ったせいだろか。それにしても、松山の道後温泉なんて、宗のイメージとは全く違う。


「いい所だよ。最近はそれほど賑やかじゃないが、その分のんびりできる」 


宗は控え目に笑って言った。


雪音にとって宗との交際は、目の覚めるようなことの連続である。

宗は思いのほか、雪音をあちこちに連れて行きたがった。食事ひとつとっても、高級レストランとか一流ホテルのラウンジだけでなく……居酒屋やラーメン屋、ハンバーガーショップのドライブスルーまで幅広い。

フラフラと腰の定まらぬ男に見えて、雪音の知らないことをたくさん知っている。


そして一番驚いたのは、彼女に支払いをさせないことだ。このGWに誘われている旅行も、費用はすべて宗が持つという。


デートで男が払うが当たり前、と耳にしたことはある。だが、雪音が高校時代から付き合い、同棲までしていた男は……思えば、ヒモ同然だった。

その反面、ヒモ男との関係は雪音にとって心地よいもので……。

その男は雪音に『必要とされている』『私がいなければ』と思わせてくれたからだ。


宗に自分は必要ない。

彼はなんでも持っていてなんでもできる。ただ、セックスの相手として気に入っただけなのだ。


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