愛を教えて ―背徳の秘書―
“愛している”の言葉と引き替えに、彼に抱かれている。

様々なものを与えてもらい、まるで娼婦か愛人だ。それがどこか惨めで、雪音は自分を卑下していたのだった。


ところが……。


「実家が松山なんだ」

「誰の?」

「俺の」

「……」


どう答えたらいいのだろう。

迷う雪音を無視して、宗は話し続けた。


「君さえよかったら……。ちょっと、寄ってみてもいいかなぁ、なんて」

「で、でも、実家って……ご両親がいらっしゃるんじゃ」

「両親とも、以前は役所に勤めててね。今はふたりとも退職して、のんびりやってるらしい。これでも俺ってひとり息子なんだよ。まあ、年に一回も戻らない放蕩息子だけど……」


雪音は迷った挙げ句、精一杯、妙な考えは起こさないように答えた。


「それって無神経だわ。滅多に帰って来ない息子が女連れなんて。誤解されるんじゃない?」

「……誤解されたら、迷惑?」


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