愛を教えて ―背徳の秘書―
雪音はうつむくと少しだけ笑った。


「万里子様はお幸せです。この世の中で誠実さにおいて、旦那様に勝る方なんていらっしゃらないでしょうから」

「ええ。卓巳さんは世界一、誠実で素敵な方だけど……本当にそう思う?」

「はい。思います!」


雪音が即答した瞬間、柔らかく微笑んだ万里子の瞳に翳が映った。


「宗さん、よりも?」


その短い質問に、雪音の胸はチクッと痛んだ。


おそらく宗は、“誠実”という言葉から、この世で一番遠い位置にいる男だ。

きっとそうに決まっている。いや、間違いなくそうなのに……。


「ええ、思い……ます」


言葉にした瞬間、雪音の瞳から涙がひとしずくこぼれ落ちた。

なぜこんなに悲しいのか、切ないのか、涙の意味がわからないまま……泣き続ける雪音だった。


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