愛を教えて ―背徳の秘書―
『写真……見たわ』


宗が携帯を取るなり、香織の沈んだ声が聞こえた。


まさかとは思うが、この憔悴ぶりから考えると……あながちあり得ないことではない。

宗はなるべく刺激しないように言葉を選んでいた。

すると、


『あれは、社長の奥様と一緒に会社に来ていたメイドよね? まさかと思ったけど……あんな若い女、しかもメイドなんかに手を出すなんて!』


電話口から流れる香織の声は恐ろしく怒りに満ちている。

だが、宗にはなんのことかわからない。送られてきた写真はこの香織との情事だった。それがどうしてメイド、おそらくは雪音の話になるのか。


『香織、落ち着けよ。写真ってなんのことだ? 俺にわかるように言ってくれ』

『しらばっくれないで! 若い女には興味はない。スーツを着て男顔負けに働いてる女が好みだ、とか言って!』

『……』


(……何年前の話だよ)


宗はため息をついた。


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