逃行少年
笠絵はまだ、ふらついている。
現実と過去を繋げる記憶がうまくまとまらない。

どこまで、覚えているのだろう?

今、自分が着ている、ぐちゃぐちゃに汚れたワンピースには、見覚えがある。

これは…そう、
「夏至祭」の時の劇の衣装だ。


「一緒に死のう」

突然、笠絵の脳裏に、あの時の光景が蘇ってきた。

果物ナイフを手にしたイバラギ。

彼は、追い詰められていた。

得体の知れない何か、漠然とした衝動を抱えて、

いつも、すがるような視線で、自分の方を見ていた。

あの目に気付いていながら、軽率にもついて行ったのだ。
本を貸すと言う、あの部屋へ。


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