好きになっても、いいですか?
そして、ほんの少しだけ震える指先を、自分の両手を握ることで耐える。
「あれは事故だぞ、麻子。もう自分を責めるな」
「――――違う。あれは、私が」
「藤堂さんの――」
麻子が否定して話そうとしたのを、父は純一の名を出して制止した。
麻子も『藤堂さん』という言葉で、我に返り父を見る。
「以前、お前は藤堂さんの前で倒れたんだって?そのときにうわ言を唱えていたらしい」
「うわ……ごと……?」
「『おかあさん、ごめんなさい』――と」
それを聞いて、麻子は呆然とする。
父である克己は、麻子を優しく悲しい目で見て言った。
「もう、責めなくていい。責める必要なんて初めからなかったんだ、麻子。彼は……お前の“トラウマ”を感じてここにきた」
「!!」
「『差し出がましいのは承知で』と」
(アイツに、知られてしまった――)