好きになっても、いいですか?

穏やかな口調で説明する敦志の横の麗華をふと見る。
麗華の足や腕、顔に擦り傷があることに気が付いた麻子は声を掛ける。


「宇野さん、大丈夫ですか?」
「え、ええ……ちょっと転んでしまっただけよ」
「でも、結構血が……」


麻子がそこまでいうと、純一が言った。


「敦志、彼女を手当てして自宅まで送ってやれ」
「……承知しました」


そして再び麗華の肩を抱き、敦志は麗華を連れて公園を出て行った。

そんな2人を見届けると、麻子はその場に座ったまま、自分の手を握りしめた。


(――今更、震えるなんて)


今思えば、人よりも非力な自分に為す術などなかったのだ、と気付いた。


「立てるか?」


純一に震える手を気付かれないように必死に手を抑え込むと、コクリと頷いて麻子は立とうとした。



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