ブルーブラック2
「は・・はい・・・」
急に名を呼ばれて美咲は硬直した。
―――“桜”
それが会話に出た時に、もうすでに美咲は気まずくて手に汗をかいていた位だ。
自分がしたことを、まだ百合香からは何も責められていない。
それが今か、と美咲は生唾を飲んだ。
たった今試筆を終えたばかりの万年筆を綺麗に洗い終えると百合香が顔を上げて美咲を見た。
その表情は真剣な顔つきで、美咲は思い込みも合って恐怖を感じた。
「万年筆に限らず、ペンを出す時には必ずペントレーを使ってね」
「は・・?」
思いもよらない百合香の言葉に美咲は拍子抜けもいいところで、実に間抜けな声を上げた。
百合香はそんな美咲を横切って、ペントレーに乗せた今綺麗にした万年筆を元の配置に戻す。
その扱い方は本当に宝物を扱っているようで、なぜだかあの百合香に手にされているペンは幸せだな、なんてガラにもないことを美咲は思いながらその後ろ姿を黙って見ているだけだった。