ブルーブラック2
「これ、字幅の表記なの。Mは中字、Fは細字」
「一種類だけじゃないんだ・・・」
「そう」
美咲の素直な感想にくすっと笑いながら百合香は両手のひらに万年筆を乗せて目を細めて見ていた。
「こういう軸が真っ黒なものだと全て同じに見えるけどね。たとえば―――」
そうして百合香はきょろきょろとした後に自分の胸ポケットに視線を止めた。
そしてすっと抜き取ったそのペンは美咲も良く知っているものだった。
「これ、“桜”っていうの。この模様は世界にひとつしか存在しない」
「ひとつ・・・?」
「一本一本柄が微妙に違うのよ。これと対になっている木目のものも同じ。二本として同じ木目のものはないわ。
もっと言えば、ペン先も同じ字幅であっても書き味が違って感じたりもする。そう考えると、全く同じものなんてないのかもしれないわ」
指先に挟めた“桜”をくるっと一回りさせると百合香はそれをまた大事そうに胸ポケットにしまいながらひとり言のように話を終わらせた。
「生田さん」
そして再びグラスに立てかけた万年筆と向き合いながら百合香が美咲の名を口にした。