ブルーブラック2

少し間を開けて百合香がそれに答えた。


「ーーーそんなことない。人がいい、だなんて…私だって何度もあなたを疎ましく思っていたわ」


まさか百合香の口からそんなことをストレートに言われるなんて思ってもみなかった美咲は驚いて、毛先に触れていた手を止めた。


「本当は凄く腹が立った――手を上げてしまいたくなるくらいに。それ位、あんな不安な思いをしたのは久しぶり」
「―――だったら・・だったら!私を殴ればいいじゃない!」


美咲は自分が悪かったとわかっているから、だからこそ、そうやって叩いて、責めて、罵られたかった。
そうされた方が清算された気がして、今よりもマシな心持になれそうだから。

その自己都合の思いから、百合香に挑発するようにけしかけたけれど、百合香は少し物悲しそうな瞳で美咲を見て、小さく首を横に振った。


「誰かに手を上げた時の痛みはもう知ってるから。それにそんなことをするよりも、相手に―――あなたには、こうした方が堪えるってなんとなくわかってる」


知っている手の痛み。
それは過去、智を巡って仕事を巻き込んだオーシャンの美雪に振りかざした時のものを百合香は言っていた。


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