ブルーブラック2
「…今から病院に行くらしい」
静かに、平静を保つように智は答える。
「今から? あとはなんて?」
「…『陣痛止まってる時間の隙に移動するから大丈夫』って」
智はそう言って、再び立ちあがった。
「行くのか?」
「いや、まさか。コーヒー淹れに」
「えっ…行かなくていいんスか?!」
「初産だし、すぐ何かあることは滅多にないと聞いた」
江川や坂谷の問い掛けに智は淡々と答える。
その声は、特に動揺もなく聞こえたが―――。
「……柳瀬さん。それ、コーヒーじゃなくて日本茶ですよ」
「しかも、それ、お前のカップじゃないだろ…」
人のカップに延々とお茶葉を入れていた智に静かにツッコミが続く。
「あー…やっぱりコーヒーはいい」
そう呟いてその場を片づけた後、またデスクに戻り、座った。
そして、パソコンの画面を食い入るようにして見ながら、おもむろに胸ポケットの万年筆を取り出した。
何かを書こうとしているでもなく、ただ、キャップを開けたり閉めたりしながら、視線は一向に動いていない。
「…さっきから同じとこばっか見て、進んでなくないですか?」
「―――今、プリントアウトするとこ……」
「…これ、さっきプリントアウトしておれに寄越したやつじゃなく?」
坂谷の言うことに、智が答えたが、江川が智のパソコンの画面を覗き見て冷静に反論する。