ブルーブラック2

「つーか、もう! 帰って下さいよ!」


坂谷がガタンと立って、智に叫んだ。
それを驚いた顔で見上げた智は何も言えずにいた。


「心配なんでしょう?! 今日幸い暇だから大丈夫ですって!」
「いや、でも……」
「柳瀬…そんな状態でここに居たって仕事にならないぞ。―――現にあれだ」


江川が坂谷に続くようにして、離れたコピー機を親指で指して言った。

そのコピー機の近くにいた経理の社員がおろおろとしながら事務所を見回し、三人の居る方へと声を掛ける。


「あのぅ…この書類、もう何十枚も続いてますけど…これ、こんなに要りますか?」
「……」


それは既に印刷済みと江川が言っていた書類で、多くても3部あればいい内容のもの。
それが智のミスで延々と印刷され続けていた。


「それ以上人格崩壊したとこ見せたくないなら、大人しく帰れよ」


最後のひと押しで、江川が言った。
その言葉を受けて、智はやや暫く黙ってたが、ガタンと席を立ち、江川と坂谷を見て一言答えた。


「――済まない」


そうして背もたれに掛けていた上着を手に、2人を横切って事務所の出口へと闊歩する。


「おいおい! 忘れモン!」


江川が呆れたように、智の引き出しから愛車のキーを投げ渡した。
それを受け取った智は勢いよくドアを開けて廊下を走りだす。

バタン! と、ドアが閉まった矢先、智が出て行った廊下からガァン! と何かに躓く音が響いて聞こえた。

その足音と、賑やかな音を聞いて、江川と坂谷はぽつりと呟いた。


「普段キレる人って、こういう時あんなミス連発するんですね」
「…まぁ“神野さん”絡みだと、ってとこか」







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