ブルーブラック2



「昨日は悪かった」


翌朝第一声、智は江川にそう謝った。

いつもより少し遅めの出社の様子を見ると、今朝も百合香の元へ寄ってから来たのだろうと、江川は察しがついた。


「いや。で、どうだ?」
「…夜の10時頃に無事産まれたよ」
「―――おめでとう!」


普段はあまり見せない智の照れた様子。
だけど、それをからかうことも忘れて江川は心から祝福した。


「女の子で間違いなかったのか? 名前は? 百合香ちゃんも平気か?」
「ああ、女の子。百合香も大丈夫だ。名前は…まだ…」
「そうかそうかそうか~~~~!」


智が嬉しそうにぽつりぽつりと答えている所を、江川はガシッと肩に腕を回して強く体を揺らす。


「んじゃ、百合香ちゃんが退院したらまた教えろよ?」
「…いいけど…その顔はなんだ…?」


男2人が密着して、しかもその一人が智なら、傍(はた)から見れば異様な光景だろう。

その至近距離で、江川はにやにやとしながら言うものだから、智は何か感じて聞き返す。


「まどかは、もしかしたらその頃はまだ産まれてないかもしれないから、祝いに」
「……それで?」
「あとは、昨日の柳瀬の動揺っぷりを伝えに」
「――――出産祝いは遠慮する」


開店前の明るい話題は一日中続いた。


そして、智の慌てようを百合香が聞かされたのは退院して数日後―――。

その話題も、仲間内では暫くネタにされた智だった。








*おわり*

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