ブルーブラック2


「いらっしゃいま――、って、百合香じゃない!」


営業中にも関わらず、そう声を大きく上げたのは桜井綾(さくらいあや)だ。


「桜井さん。お久しぶりです」
「ほんっと! わ! 碧ちゃん? と、大地くん?! おっきくなったね!」


江川家から3人で移動してきたのは、弐國堂。
子ども二人が入り口から入ってきたところを見て、綾が驚く。


「こんにちは! あやおねーちゃん」
「こんにちは…」


話好きな大地が元気よく挨拶をしてるのと対照に、碧は挨拶の言葉だけ口にするとそわそわと店内を見回していた。


「ん? 碧ちゃん、どうしたの?」
「えっ! んーん! なんでも!」
「あ!」


碧の様子に首を傾げて問い掛ける綾が、何かに気付いたような声を上げたから、碧はドキっとする。


「もしかして、“お父さん”探してるの?」
「えっ…? あ、んと……」
「お父さんなら、事務所だと思うけど!」
「あ……ありがと」


綾の予想は、外れていた。
しかし碧はそれで、“よかった”と、胸を撫で下ろす。


「だいち、おとーさんとこにいく!」
「大地。お父さんは仕事中なのよ?」
「……でもー」


俯き、口を尖らせる大地に、綾が屈んで視線を合わせて頭を撫でる。


「大丈夫よ。そろそろきっと休憩だし。ね? 百合香、連れてきなよ」
「――はぁ。少しだけよ?」
「うん!」


そんな会話をしている時も、碧は他に気を取られているようだった。
そしてその“理由”を知る百合香は言った。


「碧。お母さんと大地、ちょっとだけお父さんのとこ行ってくるわね」
「え?」
「だから、“1階で”キャラクターの文具でも見ていたら?」
「――うん!」


百合香の提案に、碧は満面の笑みでそう返事をした。


「桜井さん。また帰る時に、声掛けますね」
「りょーかい! じゃ、仕事戻るわ」


百合香は綾にそういうと、にっこりと碧に微笑みかけて、大地と手を繋いでバックヤードへと消えて行った。



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