ブルーブラック2


「おとーさーんっ」
「――大地⁈」


事務所で予想外の来客に困惑して、智は席を立った。


「どうして――…百合香?」
「ごめんなさい。――ちょっと近くに来たから…」


百合香は少し間を空けてそう言った。すると、大地が智のズボンを掴んで話始める。


「あのね! あおいが、あいたいからだよ」
「大地!」
「『あいたい』? 誰に?」


大地は色々と見たり聞いたりしていた。
それでなくとも、同じ月齢の友達よりも、姉がいるせいか大人びている。
だから今日、どうしてここに来たのかくらい、わかっていた。

しかし、“ヒミツ”ということが難しいところが3歳児だ。

なんでもかんでも話してしまう。

百合香には大地が言いたいことがわかってしまったので、名を呼びとめようとするが、もう遅い。

智が質問するのを聞いて、百合香は諦めて、溜め息を吐いた。


「んとね。じゅんにーちゃん」
「じゅん…て、坂谷?」


先程、綾が智は『休憩だ』と言っていたのは本当だったようで、そのまま大地を抱き上げる。

そして、もう一度智は大地に聞いた。


「碧が、どうして坂谷に会いにくるんだ?」
「ちょこの日だからー!」
「……」
「あの、智さん……」


意気揚々と大地は素直に答えたが、その答えに智は目を丸くして何も言えなかった。

『ちょこの日』という意味はすぐに理解した。

店でも、“バレンタイン”に向けての商品や特設売場などを設けていたのだから。

それもわかっている百合香が、窺うように智の顔を見た。


「あおい、かばんにぴんくのちょこもってたー」


次々と大地の口から事実が告げられて行くのに、百合香は頭を抱えてまた溜め息をつく。




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