ブルーブラック2
「……本気にするな」
「いやいやいや! 『本気にするな』って、おれまだ意味わかってねーし!」
江川が必死に顔を逸らした智の前に移動して、さらに問い質す。
さすがに居た堪れなくなった百合香が口を開いた。
「あの、ごめんなさい。江川さん」
「えっ? ごめんって何が? ていうか百合香ちゃん、教えてよ!」
今度は縋りつくような目を向けて、百合香の前に立った。
その視線を受けて、百合香は智の顔を見る。そして苦笑しながら説明した。
「子どものことだから、すぐにまた心変わりするとは思うんだけど…英太くんて、その…碧を気に入ってくれてるみたいだから」
「ああ! アイツ、わかりやすいよなぁ! 碧ちゃんしか見えてないだろ」
「……父親似だな」
「うるせぃ!」
途中、智が嫌味を笑いながら挟むと、江川が間髪いれずに言い返す。
そんな光景は何年も前からのことで、百合香は微笑ましくその姿を見た後で続けた。
「それで、碧は今――――坂谷さんがお気に入りなんです」
「坂谷ィ?! 『じゅんにーちゃん』て…」
「そう。坂谷さんのことです」
だんだんと意味がわかってきた江川は、智の顔を再び見た。
「――お前んとこに貰われるのはイヤだ」
「ん、なっ…!」
ぽつりと本音を漏らす智に江川が思わず声を上げる。
ちらりとそんな江川を見て、智はさらに言った。
「お前との付き合いが親戚とまで発展するなんて、想像しただけで疲れる」
「んなこと言ったって…でももしそうなったら百合香ちゃんは安心だよねぇ?」
「え? まぁ…そうですね。気心知れてますから」
『ほーら』と言わんばかりの勝ち誇った顔をして江川は踏ん反りがえる。
しかし智は頭を何度も横に小さく振って、「イヤダ」という。
そんなまだまだ未来(さき)の、しかもそうとは決まっていない仮の話を延々と続ける智と江川に百合香と大地が目を見合わせた。
「……大地、お店に戻ろうか」
「うん!」
そうして百合香が大地の手を引き、その場を離れようとした時に大地が言った。
「あおいのかわりにだいちをもらってもいーよ、えいたパパ!」
この発言に、ぴたりと大人3人は止まって、同時に笑うのだった。