弾かないピアノ

そして私は、彼の指に魅せられた。




大きな手。長く端正な指。鍵盤を押すたび、平らな甲に浮かぶ血管。


指は自分の意思で動くものなのに、彼の指だけ違う意思を持つ生き物のようだった。





「ねぇ、君」

「はっ、はいっ!?」



顔を上げると、私の座った椅子の前に彼が立っていた。


腰骨のあたりに指をひっかけるようにのせて、細い腰がとてもセクシー。


ピアノを続けるとお尻が大きくなると嘆いていたのは私の友人だけれど、彼はどうやら重力からも自由らしい。



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