伊坂商事株式会社~社内恋愛録~
「何かありましたか?」

「別に。勝ったから問題ないよ。大したことないね、企画課の奇才も」

「……山辺さん、ですか?」

「ただの腹黒野郎だよ、あんなの。自分の恋愛が上手くいかなかったからって、俺と莉衣子ちゃんの仲を嫉妬してるんだ」

「またそういう言い方をする」

「いいの、いいの。邪魔するやつはみんな俺が蹴散らしてやるんだから」


とはいえ、やっぱり疲れ過ぎているのか、ソファから体を起こせない。

莉衣子ちゃんはそんな俺の前に座る。



「社内で敵を作るような真似はしないでください。篠原さんにも怒られますよ」


俺は思わず苦笑い。



「莉衣子ちゃんも疑ってる? 俺としのちゃんの関係」

「……どういう意味ですか?」

「山辺さんにも言われたんだ。何かあるみたいなこと」

「何かあったらすぐにわかりますよ。宮根さんは自分が思ってる以上に顔に出る人なんですから」

「うっそ」

「あなたは口は達者ですけど、中身はただの子供です。もっと言えば、気まぐれな猫みたいなものです」

「ひどいねぇ」

「篠原さんは、宮根さんにとって、なくてはならない存在です。でもそれは、“そういうこと”じゃなくて。私にも兄がいますけど、それと同じようなものでしょ? ちゃんとわかってますよ」


莉衣子ちゃんは俺の頭をよしよしする。

心地よい手の感触を感じながら、俺は「ありがとう」と言った。



「俺も頑張らなきゃね」


莉衣子ちゃんは「また話が飛びましたね」と言うけれど、



「頑張るよ、仕事。そんで、いっぱい契約取る。めんどくさいけど、そしたらいっぱい手当てもらえるし」

「はい」

「で、お金貯めて、莉衣子ちゃんにでっかいダイヤの指輪をプレゼントするの」

「……はい?」

「早くプロポーズしたいの。莉衣子ちゃんのこと取られたら嫌だから。俺だけの莉衣子ちゃんだって、みんなに自慢してやりたいの」
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