会いたくなったら、上を見上げて
「お父さん。元気?」

「おう。志穂ちゃん。お父さんなら今、席をはすしとるぞ」

せっかくお見舞いに来ても、毎回のように病室にいないんだから。
毎回同じ病室の水沢さんに、お父さんのいないことを聞く。
もうお父さんはこの病室にはいないんじゃないかと思えてくる。

「お父さんはまた外に?」

「そうじゃろうねぇ。退院も近いじゃろうから」

「そうなんですか!?」

「何じゃ? 聞いてなかったんか? 退院の事。」

「はい。私は何も……」

何で? 何で? 何で?
……何で?
何でお父さんは私に何も話してくれなかったの?
ねぇ〜何で?
お父さん。今どこにいるの?
私の前に来て。
私に話をして。
いつ退院するの?
何で教えてくれなかったの?
お父さん?
お父さん?

「おい志穂ちゃん。大丈夫かい?」

「あっ、はいっ。すみません」

「お父さんならもうすぐ戻ってくるじゃろう」

「志穂!」

聞き覚えのある声。
お父さんの声。

「ふふふ。言ったそばから」

水沢さんの言葉と同時に、私は振り返った。
でも、お父さんの顔を見ることはなかった。
そのままお父さんにしがみついたから、顔を見れなかった。

「バカバカバカ。お父さんのバカ」

気づいたら、目からしずくがたれていた。
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