いきなり王子様
ふふっと笑う。

目の前にある竜也の顔が、一瞬曇った。

「悪かったな。全く俺の事考えてなかったのに、無理矢理連れまわしてさ。
昨日からずっと奈々を俺のものにしようってばっかりで、奈々の気持ちは二の次だったな」

「あー。本当、そうだね。私の気持ちなんて考えてなかったでしょ。
強引な男だよね。私じゃなきゃ、ストーカー被害で訴えられてるよ」

肩を揺らし、軽くそう言う私に、竜也は少し悲しそうに。

「ストーカーか。それはまあ、悪かったけど。
俺、奈々が俺の事を好きになってくれる予感があったからな。
もう、押し切るつもりで攻めた」

「よ、予感?」

「そう、予感。美散にはどうしても感じられなかった予感を、奈々に何度か会う度に強くなった」

思い返すようなその声は、特に深い裏の意味なんて含めていないようだけど、それは竜也の側から見た思いであって、『美散』なんて名前を口に出されたわたしにとってそれは地雷に近いようなもので。

竜也の腕に抱き寄せられている体は一瞬で固くなり、言葉を失った。

やっぱり、美散さんと。

そう思いながら。

それでも感じる竜也の温かい体温から、離れられないな、とも感じていた。

昨日からの竜也の勢いと強引な展開によって、私の心は既に、竜也に取り込まれて逃げられないようだ、と諦めにも似たため息を吐いて。

「で?美散さんの事、好きだったんでしょ?」

内緒ごとや駆け引きが苦手な私は、直球勝負、ほんの少し硬い視線を竜也に向けた。

きっと多くの女の子達は、好きな人の過去や昔の恋愛について不安があると、それとなくじわじわと問いただしながらパズルを組み立てていくんだろうけれど。

私はそれができなくて。

正面から。

こんな私のどこがお姫様だ、と苦笑すら浮かぶ。


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