いきなり王子様


研修の後の配属が決まった頃を思い出しながら話す甲野くんは、何だか楽しそうに見える。

そして、特に重苦しい雰囲気も見せず。

他人の事を話すような声には、違和感も感じた。

本社に配属されると思っていたのに、そうではなかった時は、かなり落ち込んだと思うのに、そんな過去はなかったようにあっけらかんと笑っているし。

「甲野くんは、工場の配属が不本意じゃなかったの?
司みたいに相模さんの下で働きたくなかった?」

思わず聞いてしまった私に、ちらりと視線を向けると。

「はっきり聞くね。誰もが俺に対して聞きたくて聞けなかった事なのに」

どこか呆れたような声に、まずい事を聞いてしまったかな、と一瞬思うけれど。

「だって、甲野くん、聞いちゃだめだっていう顔してないし。
工場で仕事してる様子見てたら、今の毎日に不満感じてなさそうだったから」

今日、工場で甲野くんと打ち合わせをしたのはほんの数時間だけど、そんな短時間でも、甲野くんが今の仕事に不満は感じていないとわかった。

というよりも、かなりやりがいを感じているんじゃないかなあと思えた。

工場での設計に誇りや責任感を持って、前向きに楽しんでいる。

打ち合わせで交わした言葉の端々に、そんな思いが見え隠れしていて、何故か新鮮だった。

そして、嬉しくもあった。

そんな私の言葉に、甲野くんはしばらく黙り込んだ後、

「そうだな、不満なんて感じてないな。思いがけずの展開に最初はびっくりしたけど、楽じゃない人生には慣れてるし」

今日一番の優しい声が車内に響いた。



< 27 / 228 >

この作品をシェア

pagetop