いきなり王子様


決して、これまで何も経験をしていないわけではないし、恋人と朝を迎えたこともあるけれど、きっと同世代の女の子の平均からはその回数はかなり少ない。

というよりも、恋愛経験自体が少ない。

「まあ、そのうち一緒に朝を過ごすだろうし、楽しみだな」

余裕に満ちた竜也の声すら、必要以上に神経質に受け止めてしまう。

コーヒーを飲み干して、相変わらず楽しげな笑みを浮かべていた彼は、

「奈々、かわいいな、やっぱり。……じゃ、そろそろ行くか」

私の頬を優しく撫でて、立ち上がった。

伝票を手にレジへ向かうその背中を見ながら、私もそれについて行かなくちゃと心は焦るけれど、どうにも体の中から力が抜けて足が思うように動かない。

竜也の言葉にここまで影響を受けるなんて、予想外だ。

ふう、と大きく息を吐いて、気合いを入れて、どうにか立ち上がっても足元はなんだかおぼつかない。

私の体はふわふわと浮足立って。

まるで違う世界に放り込まれたような気がした。

「奈々っ」

レジの前にいる竜也が、私を優しく手招く。

その姿に引き込まれるように歩きながら、やっぱり私は竜也に遊ばれてるなあと、悔しくなる。

それでも、再び竜也の車に乗り込んで。

「どこに行くの?」

という私の問いにも笑って

「それは着いてからの、お楽しみ」

はっきりしない彼から離れられない私。

少なくとも、私は竜也の思うがままに動かされているんだ、と実感するしかなかった。
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