いきなり王子様
「奈々は、本社のスタッフ部門だし、特に業務に必要なければ設計の事なんて知らないだろうって思ってたけど、この家が相模さんの設計だってわかるくらいだから、かなりの知識を持ってるんだろ?」
それは質問ではなくて、確信。
竜也は、小さく笑いながら私に視線を向けた。
「かなりかどうかは、よくわからないけど。
まるっきり仕事で必要ないわけでもないんだよ。
確かに経理部だから設計の細かいルールとかまでは知らないけど、他社との比較ができるくらいの知識はあるかな」
「誰に教わった?」
「んー。いろんな人。カタログ片手にそれぞれのブランド担当設計部署に行って細かく聞いたり。面倒くさがられる事も多かったけど、仲良くなったら飲み会に誘ってもらったりして、そこからまた知り合いが増えて。
なんだかんだ言いながら社内中の人に教えてもらってる」
「へえ。そう言えば、うちの部署の新人も、奈々の事を知ってたな」
思い出したような声。
新人?誰だろ。
竜也がいる製造部の新人っていえば。
「あ、笹原っ」
思い出した途端に大きな声をあげた私に、竜也は驚いている。
「あ、ごめんごめん。笹原って、私が新人研修で担任をしてたグループの悪がきなのよ」
笹原希一。忘れもしないあの悪がき。
既に社会人である男に悪がきも何もないけれど。
いつも余裕ぶって私をからかっていたあの男。
「へえ、竜也のところにいるんだ。相変わらず生意気な奴でしょ?
こないだも本社に来たついでに寄ったって言いながら、ちゃっかり私におごらせて帰っていったし」
本社での会議後、経理部にやってきた笹原は、その晩は本社勤務の同期の部屋に泊まるからゆっくり飲めるっていうのを理由に奢ってくれと言い出し、そのまま経理部の可愛い女の子をも巻き込んで居酒屋へと。