114歳の美女
 ときが智也から離れた。涙はもう止まっていた。


 「うちらは夫婦茶碗みたいどすな」


 何を思ったのか、ときが呟いた。

 「夫婦茶碗?」


 「赤い瓢箪の茶碗は、青い蜻蛉の茶碗とは、夫婦茶碗になれまへん。いろいろ茶碗があっても、夫婦茶碗になれる茶碗は、ただひとつ。青い瓢箪の茶碗だけどす」


 智也が瓢箪の夫婦茶碗を見た。


 「うちが選ぶのは青い瓢箪の茶碗。あんただけどす」

 「僕が選ぶのも赤い瓢箪の茶碗。ときさんだけです」


 二人は目と目で頷きあった。そして、その店で瓢箪の夫婦茶碗を買い求めた。


 清水寺の行きの道と帰りの道。同じ道を歩いても、二人の心は行きと帰りでは、大違いだった。






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