114歳の美女
 「うちはここから見る眺めが大好きどす。すぐ近くに山があって、いろんな色の緑があって、川がある。
 ここからの眺めは、幾ら見ても見飽きる事がおへん。
 嫌な事も、辛い事も、悲しい事も、みんなこの川が流してくれます。さらさら、さらさらと、綺麗さっぱりに・・・」


 「ときさん、それで、ここに」
 マスターが欄干に両肘を乗せながら、ときを見て言った。


 ときの目は、川の水をずっと見ていた。


 「人間は、何で死ぬのかな」
 マスターが、ぽつりと言った。


 「お家はんの言葉を借りるなら、それが定めどす。長い歴史のひとコマを営み終えれば、人間は朽ちて行く。それが、定めどす」
 「定めか」


 「死んで行くのも辛いけど、生きて行くのももっと辛い。うちは大切な人をたくさん亡くして、つくづくそう思いましたぇ」


 「僕も妻を亡くして、つくづくそう思いました。でも、川の流れを見ている内に、そんな思いをこの川が流してくれた様で、少し気が楽になりました」


 マスターが川の流れを一心に見詰めている。ときも川の流れを一心に見詰めていた。





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