白き薬師とエレーナの剣
 キリルが箱から取り出したのは、乳白色の外套を二着。
 ひとつをいずみに手渡してから、もうひとつは水月に向けて雑に放り投げた。

「その外套を服の上に着ろ。それなら陛下の御前に出ても見苦しくない」

 いずみは頷くと、折り畳まれていた外套を広げる。
 フード付きの分厚くて上質な生地の外套だ。飾り気が一切ない分、清潔感がある。

 言われるままにいずみが外套に身を包んでいると、隣で水月が「扱い悪ぃな」とぼやきながら着替えていた。

 外套をまとった二人の全身を隅々まで眺めてから、キリルはいずみの目を真っ直ぐに射抜いてきた。

「その姿、陛下や俺以外の人間には見せるな。お前の正体が分かれば、狙ってくる輩が出てくる。さらわれるだけなら、まだ取り返しもつくが……最悪、陛下の不老不死を阻止しようとする人間が、お前を殺しに来るかもしれない」

 いずみの息が思わず止まる。
 キリルが言っていることは、決して大げさではない。

 不老不死を望む人間は他にもいるだろうし、それを抜きに考えても『久遠の花』の力を欲する者は少なくない。
 それに狂王と噂されるジェラルド王が不老不死になれば、困る者が大勢出てくるだろう。

 血の気が全身から抜け出るような寒気を感じつつ、いずみはコクリと頷き、フードを深々と被って顔を隠す。
 同じように水月もフードを被ると、キリルへ手を差し出した。

「そこまで心配してるなら、オレに武器をくれよ。万が一アンタたちの助けが間に合わない時のために」

 ジッと水月の手を見つめた後、キリルは腰に挿していた短剣に手を添えた。

「確かに一理あるな。だが、お前がこれで陛下を襲う可能性のほうが遥かに高い」

「オレたちは確実に生き延びたいんだ、そんな勝算のない賭けはしねぇよ」

 顔は見えずとも、低く揺らがない声が水月の気迫を伝えてくる。
 キリルにもそれが分かったのか、おもむろに短剣を外し、水月の手に置いた。

「妙な動きをしたら、いかなる理由があっても即座にお前を斬り捨てる。それを肝に銘じておけ」

 短剣を受け取った水月の手が一瞬だけ強張る。
 しかし、吹っ切るように短剣を強く握り込むと、すぐに己の腰へ挿した。
 ほんのかすかに安堵の息をついたことが、いずみには分かった。
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