白き薬師とエレーナの剣
 考えるよりも先に、いずみの口から声が出た。

「お待ちください陛下! 一日でも早く不老不死を成し得るためには、彼らの協力が必要になります」

 思わず言ってしまったが、考えていなかった内容に頭の中が一瞬白くなる。
 顔に出てしまったいずみの動揺を見逃さず、ジェラルドが怪訝そうに目を細めた。

「あやつらにどんな利用価値があると言うのだ?」

 いずみは一度息をついて動揺を抑える。
 少しでも間が開けば不審に思われてしまう。行き当たりばったりでも、口を開くしかなかった。

「まず、私はこの国の土地勘がまったくありません。いくら知識と技術があっても、材料が調達できなければ――」

「その心配は無用だ」

 キリルが抑揚のない声で、こちらの言葉を遮った。

「材料の調達だけならば、それを専門に扱い、卸してくれる人間がいる。それに『久遠の花』が育てていた薬草の苗や種も持ち運んでいる。必要に応じて、お前が育ててれば問題ない話だ」

 自分だけじゃなく、薬草の苗や種までも……。
 思わず愕然となり、いずみの息が詰まった。

 そこまでやっているなら、作り置きの薬も、保存されていた材料も持って来ているのだろう。
 何もかも奪われたのだと思った瞬間、全身が脱力し、その場へ崩れ落ちそうになる。

 けれど水月を、何も知らない城の薬師たちを死なせたくない。
 彼らを生かすためには、ここで意地でも食い下がらなければいけなかった。

 いずみは外套の下でギュッと拳を握り、キリルを見据えた。

「確かにそれなら材料を調達できます。でも、私が目立って動けば、正体に気づいて陛下の不老不死を邪魔する者も出てくるでしょう。彼らを利用したほうが、より自然と周りの目をごまかすことができると思います」

 利用するという言い方はしたくなかったが、狂王の考えに合わせなければ伝わらない。
 再びジェラルドに顔を向けると、いずみは大きく息を吸い込んだ。

「協力者は必要ですが、私の姿と名を変えて薬師の助手として振る舞えば、周りに正体を悟られる危険もなくなります。ですから、どうか彼らにご慈悲をお与え下さい」
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