白き薬師とエレーナの剣
水月と一緒に考えた、もっともらしい嘘。
ここから逃げ出す方法を考えるために、少しでも期限を伸ばすこと――その場しのぎであっても、今はそれが最善だろうということが、二人の共通した考えだった。
ジェラルドは眉間に皺を刻み、小さく唸った。
「確かに一理あるな……では、不老不死になるためには、どれだけの時間が必要になる?」
「個人で差はありますが、健康な体の持ち主なら三年から五年ほどかかります。ですが――」
一旦言葉を止めて、いずみはジェラルドの顔や手や肌を見る。
誰が見ても健全とは思えない状態だ。もっと近くで見れば詳しく分かるが、今はこの距離から簡易的に見ても、普通ではないと断言できる。
眼差しを強め、いずみは再び口を開いた。
「――恐れながら、今の陛下では不老不死になる前に体がもたなくなります。まずは秘術に耐えうる健全な体を作って頂かなければいけません」
ピクリとキリルが耳を動かし、わずかにいずみを振り向く。
相変わらず表情のない顔だが、こちらを見てくるその目からは、一段と鋭く冷ややかな視線を感じた。
時間稼ぎではないかと疑っているのか、王に近づき毒を盛ることを恐れているのか。
真意は分からないが、警戒されている気配が伝わってきた。
キリルから送られてくる無言の重圧に負ける訳にはいかない。
いずみは唇を噛み締め、心を奮い立たせる。
「私なら陛下のお体に合わせて、薬を煎じることができます。そのために、定期的に陛下のお体を私に診させて頂けないでしょうか?」
しばらくジェラルドは視線を落とし、顎を撫で続けながら考え込む。
間もなくして、彼はいずみに視線を戻し、億劫そうに鈍い動きで頷いた。
「それが不老不死に必要だと言うなら、余の体を診ることを許そう」
「ありがとうございます、陛下」
いずみは一礼しながら、ここまで話を聞き入れてくれたことに安堵して表情を緩める。が、
「ならば、城に居る薬師どもは用済みだな。余の体をまともに癒すこともできない連中に、生きている価値などない」
一切のためらいもなく言い切ったジェラルドに、いずみの顔は強ばる。
彼が狂王だと言われる理由がよく分かった。
ここから逃げ出す方法を考えるために、少しでも期限を伸ばすこと――その場しのぎであっても、今はそれが最善だろうということが、二人の共通した考えだった。
ジェラルドは眉間に皺を刻み、小さく唸った。
「確かに一理あるな……では、不老不死になるためには、どれだけの時間が必要になる?」
「個人で差はありますが、健康な体の持ち主なら三年から五年ほどかかります。ですが――」
一旦言葉を止めて、いずみはジェラルドの顔や手や肌を見る。
誰が見ても健全とは思えない状態だ。もっと近くで見れば詳しく分かるが、今はこの距離から簡易的に見ても、普通ではないと断言できる。
眼差しを強め、いずみは再び口を開いた。
「――恐れながら、今の陛下では不老不死になる前に体がもたなくなります。まずは秘術に耐えうる健全な体を作って頂かなければいけません」
ピクリとキリルが耳を動かし、わずかにいずみを振り向く。
相変わらず表情のない顔だが、こちらを見てくるその目からは、一段と鋭く冷ややかな視線を感じた。
時間稼ぎではないかと疑っているのか、王に近づき毒を盛ることを恐れているのか。
真意は分からないが、警戒されている気配が伝わってきた。
キリルから送られてくる無言の重圧に負ける訳にはいかない。
いずみは唇を噛み締め、心を奮い立たせる。
「私なら陛下のお体に合わせて、薬を煎じることができます。そのために、定期的に陛下のお体を私に診させて頂けないでしょうか?」
しばらくジェラルドは視線を落とし、顎を撫で続けながら考え込む。
間もなくして、彼はいずみに視線を戻し、億劫そうに鈍い動きで頷いた。
「それが不老不死に必要だと言うなら、余の体を診ることを許そう」
「ありがとうございます、陛下」
いずみは一礼しながら、ここまで話を聞き入れてくれたことに安堵して表情を緩める。が、
「ならば、城に居る薬師どもは用済みだな。余の体をまともに癒すこともできない連中に、生きている価値などない」
一切のためらいもなく言い切ったジェラルドに、いずみの顔は強ばる。
彼が狂王だと言われる理由がよく分かった。