珈琲の香り
ゆっくり歩いて欲しい。

そう言ったからか、涼さんの歩きはゆっくりになった。

だけど、何かを思い詰めたような、悲しい顔はそのまま……

元々無口な方ではあったけど、今日は普段に輪をかけて無口。

こんな沈黙、耐えられない……


「どこへ行くんですか?」

「……あと少し……」

「お店はどうするんですか?」

「……今日は終わりだ」

「お腹、空きません?朝早くて、なんだかお腹空いちゃいました」

「………」


私の明るい声は中に浮き、涼さんは無言で歩き続ける。

……私、空回りしてる……

辛い……

涼さんの悲しい顔、少しでも溶かしてあげたいのに……

どうしたらいいの?

……やっぱり……私じゃダメなのかな?

私じゃ涼さんを笑顔にできない?

私じゃ………



「……ここだ」

「ここ…?」


立ち止まる私と涼さんの視線の先にあったもの。

それは……


「やすらぎの森………?」

「風花がいる……」


風花さんが眠る場所。

なぜ?

何で風花さんが眠る場所なんて連れてきたの?

何で?




足が震えてる。手も……

汗が流れるほど暑いのに……

押さえることができないくらい、震えてる。

微かに漂う線香の香りが、不安を煽る。

私と風花さんを会わせて、どうしようと言うの?

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