珈琲の香り
別にね、喫茶店じゃなきゃ飲めないってわけじゃないの。

家に帰ればコーヒーメーカーもあるし、ネルのドリッパーもあるし、サイフォンだってある。

だから、いつでもコーヒーは飲めるんだけどね…

やっぱりおじさんが入れてくれたコーヒーとは違うんだよね。

同じ豆なのに…






私が喫茶店を選ぶときに重視していること。

それは、自家焙煎してること。

焙煎によって味が変わるからね。

それと、お店の雰囲気。

チェーン店のようなところもいいけど、私が選ぶのは必ず個人でやってるお店。

邪魔にならない程度のジャズやクラッシックが流れていて、カウンターにサイフォンが並んでると、もう最高!

…だけどね、個人の喫茶店って、突然閉店しちゃうことが多いんだよね…

さっきのおじさんのお店みたいに…



おじさんのお店、家から近くて良かったのに…

この近所、喫茶店がないんだよね。

ファストフード店はいっぱいあるのに…




トボトボと家に向かって歩いていたら、突然誰かに肩を叩かれた。

誰よ!落ち込んでる私の肩を気安く叩く奴は!!

なんて振り返ると…

――フニ…

何かが頬に刺さった…


「何落ち込んでるの?」


私の頬を刺したのは…妹の桜だった。


「何だ…桜か…はぁー…」

「何だ…はないでしょ?どうしたの?」

「…おじさんのお店、なくなっちゃって…」

「おじさんのお店って、いっちゃんが気に入ってた喫茶店?」

「そうなの…明日からどうしたらいいの?」


妹の桜とは双子なのに、見事にすべてが正反対。

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