桜が求めた愛の行方

どうしてこんな事になってしまったのだろう?

《ごめんなさい、さくら》

母の顔を思い出しついに瞳から涙が零れる。
何を謝っているの?
母はどうして私の味方をしてくれなかったの?

『もうっ!』

勇斗に背をむけた。

『悪かったよ』

背後から彼の腕が回される。
一瞬びくっとしたが、
そのまま振りほどかなかった。
ありえない親密な状況も心がささくれた
今は気にならない。

『私は頼んでない』

『わかったって。
 この話、お前が断ってくれると
 思っていたからつい……』

さくらは驚いて、腕を払って振り返った。

『どうして?
 あなたが断れば良かったじゃない?』

『何も聞いてないのか?』

『何を?ここに来るまで母の嫌がらせだと
 思っていたのに?』

『えっ?』

『母の言う事をきかない私への嫌がらせ
 だと思っていたのよ』

渡されたハンカチで涙を拭きながら
さくらは、今朝までの事を説明した。

信じられないという顔をしていた勇斗は
やがて爆笑しだした。

『笑い事じゃないわ!』

『だって、おまえ』

『私は真面目に話してるのよ!』

悪いと言いながら顔を引き締めたが、
瞳はまだ笑っている。
そこまで笑われる事じゃない筈よ!

『なるほど、どおりでね』

『何が?』

『おまえ、じい様になんて言ったか
 覚えてないだろ?』

『えっ?!何か変なこと言った?』

『ああ、新居をどうするか?って聞かれて、
 馬小屋で充分って言ってたぞ?』

その時を思いだし勇斗はまた爆笑する。

『う、嘘よ!!でたらめ言わないで!』

そう言いながらも、お祖父様の顔を見て
お仕置きならこんな事しなくてもいいのにと
考えていたことを思い出した。

恐る恐る彼を見上げる。

『みんな冗談だと思って笑ってただろ?』

確かに笑われたような気がする。

『昔、軽井沢でじい様の大事な鷹の彫刻に
 イタズラしたのがバレて馬小屋に
 閉じ込められた事があったよな』

『あれは、あなたがやったことなのに
 私まで同罪にさせられてしまって……』

『違うだろ、鷹の目に色塗ったじゃないか』

『あなたが塗れって言ったんじゃない!』

子供にしては色のタッチが上手くて
本物の鷹のようだったし、
私もあの方が好きになった。
たぶん、彼はわざと目を塗らなかったんだと
思う。
ずっとそばで見ていた私に、
黒をつけた細い絵筆をニヤリと笑って
渡したのだから。

『じい様さ、本当はあれ気に入ってたよな?』

『そうね』

カンカンに怒っていたお祖父様だけど
あの鷹は色塗りされたまま、
今では藤木家の玄関に鎮座している。
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