桜が求めた愛の行方
しばし懐かしさに思いを馳せていた
勇斗の顔がいつもの表情に戻った。

『話が逸れたな』

『ええ。私が聞いてないことを教えて』

『ああ』

少し躊躇ったあと彼は続けた。

『……今、佐伯の会社が危ないんだ』

『えっ?!』

『数年前のちよっとした失敗が取り戻せない
 まま大きな損失になっているらしい。
 俺も詳しい事はよくわからないんだが、
 このご時世で、銀行の融資が
 渋っているんだと思う。
 だが、この結婚によって
 藤木のバックアップがあると知られれば、
 楽に事が運ぶだろうな。
 そうすれば必ず立ち直れるはずさ』

『そうだったの……
 でも、私達が結婚しなくてもお祖父様は
 手を貸してくださると思うわ』

『そこなんだ』

『え?』

『そのじい様が、
 この結婚を条件にしているらしい』

『嘘っ!私は何も聞いてないわ、
 ……あなたはそれでいいの?』

『初めは断ったさ。
 いくら何でも結婚っていうのは…
 でもよく考えてみろよ、
 おまえはうちの母さんのお気に入りだろ?
 それに親父がさ、頭を下げるんだよ……
 社員を路頭に迷わすわけにいかないって』

『……』

親に頭を下げられるってどんな気持ちだろう。私だったら断れるかしら?
ううん、できない。
それに私だって、佐伯のおじさまやおばさまを苦しめるような事はしたくない。

『私達、結婚するしかないの?』

問いかけは宙に浮いたまま、息苦しいほどの沈黙が流れた。
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