桜が求めた愛の行方


扉が開いて、来客を次げる音に弾かれた
ように、山嵜は顔を上げた。

入口からゆっくりこちらに歩いて来る姿を
見て込み上げてきた想いをぐっとこらえる。

『お待たせして、すみません……』

『いや、あなたこそ、軽井沢から運転して
 疲れているのでは?』

『平気です』

空気が重い……
お互い口調の堅さに、ピンと張り詰めた糸が
見えるようだ。

『そこに掛けていてください。
 いま飲み物を用意しますから…
 よければ何か口に?』

冷蔵庫には、手が動くままに作った
アミューズが何品か並んでいる。
作っている時から、これは明日のスタッフ達のまかないになるとわかっていたが
それでも期待を込めて聞いてしまった。

『どうぞお構い無く。食事は済ませましたし  喉は乾いていませんので』

嘘だ。
さくらは店内に漂ういい匂いに、
鳴りそうになるお腹を押さえた。
サービスエリアで買ったサンドイッチは
喉を通らず、そのまま車に置いてあるし、
口の中は干上がるほどカラカラだ。

『そうですか』

敵意さえ感じる拒否に
山嵜は表情を見せないように、
手元を見るふりをしてうつむいた。

この娘には嫌われている。
それはすみれとの再婚の話がでたときから
薄々感じていた事だ。
藤木要人は、真実を知りながら娘を
目の中に入れても痛くないほど、可愛がっていたと聞く。
感謝こそすれ、嫉妬するなど罰当たりな事だとわかっている。
それでも、自分が逃したもの、本来この娘と
築けたものを思うと嫉妬と羨望が心を巣くう


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