桜が求めた愛の行方
『あのさ』

『なに?』

『本当は兄さんがここへ来ようとしたん
 だけどね、お母さんがさ

《新郎がお式の前に見るのは
  縁起が良くないのよ、それでもいいの?》

 って言うから我慢して、僕が来たんだ』

あの兄さんの顔ってば、と真斗は笑った。
まったく、
兄さんがあんなメロメロになるなんて
さくねえはどんな魔法をかけたんだ?

『何か大事なこと?』

『うん……すみれおば様が会いたいって…』

『お母さま?………まさか!!』

『しっ。そう1人じゃない』

驚き離れようとするさくらを
真斗はもう一度抱き寄せた。

『まぁ、一人のが不自然だよね』

さくらは動揺して、震える手をぎゅっと
握りしめた。
帰国後、一度だけ勇斗と結婚の報告に
会いに行ったきり、
個人的に母と会うことはなかった。

母は私がすべて知っているとは
夢にも思っていないだろう。

私が避けているのは、未だに自分の再婚に
怒っていると勘違いしている。
ううん、勘違いではない。
もちろん、再婚には怒っているわ!

『会いたくない』

うつむいたまま、真斗の胸に囁きかける。

『わかってるよ、なあ?
 やっぱり兄さんには話さないの?』

さくらの体がびくっとこわばる。

『前にも言ったけど、
 それは私達の役目ではないわ。
 それ以前に、私達が知っていることすら
 あの人たちは気づいてないのに、
 そんな事できる訳がないでしょ?
 彼を傷つけるようなことをしたくない……
 私達にそんな権利はないのよ』

『そうだけど……』

さくねえは傷ついていいのかよ!
どうしてさくねえだけが、一人で背負って
犠牲になっているんだ!
真斗の腕に自然と力がこもる。

『まーくんお願い』

『わかった、でもさくねえ一人が
 背負うことじゃないから』

『何言ってるの!!
 あなたこそ、こんな事には関係なく
 生きていいはずなのに私のせいで……』

『それ以上言ったら本気で怒るよ?』

『ごめんね』

真斗をこんな風に大人にしてしまったのは
間違いなく私のせい。
さくらはぎゅっと瞳を閉じた。

『さくねえが謝る事じゃないでしょ』

『わかってる』

でも、ごめんなさい
さくらは心の中で謝った。

『すみれおば様には、
 僕が適当に話しておくけど、
 今日一日避け続けるのは無理だよ?』

『そうね、その時は彼が側にいると思うから
 きっと動揺せずにいられるわ』

『わかった』

コンコンと、ノックがして
学生時代の友人達の声がする。

『とりあえずは、何とかなりそうね』

『ナイスタイミング』

真斗が《どうぞ》と開けた途端に部屋の中は賑やかな笑い声の洪水になった。

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