花嫁に読むラブレター
優しい笑顔だ。
人々の喧騒も、馬車の音も聞こえない。あるのは湖面を跳ねる虫が飛沫をあげる音、鳥がさえずる優しい音だけだ。普段みんなでわいわいと騒がしくしているマイアも、この場所の静けさが好きだった。
そう。そうだ。
ユンが笑ったときに感じるなんともいえないほっとする心地。この湖にひとりやってきて、腰をおろしたときの安堵感に似ているのだ。優しい空気。言葉を交わさなくても、居心地の悪さを感じさせない、柔らかな青年。
ステイルとは真逆だと思った。
彼のことは物心ついた頃から慕っていたが、少しでも言い争いになれば、どちらも譲らない頑固さがあるゆえ、こんな穏やかな時間を過ごせた試しがない。喧嘩も絶えなく、そのたびにマイアはこの湖にやってくるのだ。すると、血が上っていた頭に冷水をあびせられたかのような落ち着きを取り戻せるのだ。謝るのはいつだってマイアだったが、そのあと「仕方ないな」と言って、少し照れたように視線をそらすステイルを見るのが何よりも好きだった。