花嫁に読むラブレター

 話していくうちに、自分が少しずつ俯いていくのがわかった。スカートの裾をぎゅっと握りしめる。

「ねえ、マイアさん。今でもこの湖が好き?」
「もちろん」
「それは国宝だから?」

「違います!」


 自分でもびっくりするくらい、大きな声を出していた。ベンチから腰を浮かせ、こぶしを握って、ユンを見つめる瞳は怒りを含んだ激しさをたたえていた。

 ユンは知らない。

 ここの湖が大好きだと言えるのは、景色が美しいとか、空気が澄んでいるとか、そんな理由よりももっと大事なことがあるのだ。しかし当然ユンが知るはずもない。

 幼い頃から丘の上の施設で育てられ、何かあるたびに湖に遊びにきていたマイア。ステイルと喧嘩して、ひとり湖で時間を潰すことももちろん、二人の遊び場でもあったのだ。街の子供たちのように裕福ではないマイアたちの遊びといえば、自然と戯れることだった。草笛でどちらが高く澄んだ音が出せるか、湖に投げた石がつくる波紋はどちらのほうが大きく広がるか、また、マリーおばさんやブラウンおじさんにこっぴどく叱られた夜、湖に下りてきて身を隠したこともあった。そのあと、余計に二人から小言を軽く一時間は聞かされたのは言うまでもない。
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