ショコラ SideStory
「……っ、もう。ちょっとだめ、暑い。詩子、悪いけどお水頂戴」
通りすがりの詩子に声をかけると「はぁい」と軽やかな返事。
そしてそれはすぐに運ばれてきて、詩子は私とマツくんの間の微妙な空気に小首を傾げる。
「ぷっ。康子さんて意外に女子ですよね」
「もう、うるさいな。この策士。……ふう、冷たくて美味しい。いつの間にここのお冷はレモンなんかいれるようになったのかしら」
いつもお冷は出してもらうけど。
そういえばあんまり飲んだことなかったな。
コーヒーもすぐ出てくるから、そっちばっかり飲んでたんだった。
「本当だ、レモン入ってますね」
「さっぱりするわ。……こうやってちょっとずつ工夫していって『ショコラ』は今の姿になってるのよねぇ。最初は反対したけど、隆二くんはなんだかんだ言っていい店主だわ。それは認める」
小さな白旗宣言に、マツくんは気づくかしら。
私が『ショコラ』の店主としての隆二くんを褒めるのって、実はかなりレアなことなんだけど。