ショコラ SideStory
私は自分のカップを持って、再びカウンターに移動する。
待っているのはジト目の隆二くんだ。
「……何話してたんだ?」
「さあ? 世間話よ」
「凄く楽しそうだったし。……なんで照れてた?」
「あなた忙しかったんじゃないの? どんだけ観察してるのよ」
「気になって手がつかなかったんだよっ」
吐き捨てるように言って厨房に戻ってしまう。
こっそり近寄ってきたマサくんは、お冷を置くフリをしながら私に耳打ちした。
「マスターが、ケーキの仕上げ失敗するの初めて見ました」
「え?」
「結構気にしてるみたいですよ?」
クスリと笑ってマサくんは厨房の方へと戻っていく。
勝手に緩んでくる頬を何とか抑えつつ、私は詩子を呼びつける。
「詩子、注文。チョコレートのケーキなんでもいいから持ってきて」
「えー、何でもいいからって何よ」
「マスターオススメのお願いしますって言ってきて」
不満気な詩子が厨房に消えて、その後しばらくするとガトーショコラにフルーツの飾られたケーキを持って隆二くんが出てきた。