ショコラ SideStory
「改めまして、松山真司です。『ショコラ』の常連って言えばいいですかね」
「あらそうなの。私は桂木……じゃないや、相本康子です」
「親父さんの奥さん?」
「ええ」
再婚してから人に自己紹介するのは初めてかも。
ちょっと嬉しいわ。
「そうか、貴方があの“康子さん”だったんだ。ところで、親父? いつもの頂戴」
「ショートケーキか」
「違うって! 分かってんだろ。ビーフカツサンド」
「嫌だ。今日は売り切れ」
すごく嫌そうな顔でそっぽを向く。ケーキの注文じゃないからイヤなのか。
そういうところは相変わらずだわ。
「そんなこと言っていいのかなぁ。貢物もちゃーんと持ってきてあるんすけど」
「あ。それはいるぞ。……チッ、分かったよ。ちょっと待ってろ」
松山くんがひらひらと見せたシールのようなものを、隆二くんが奪い取って厨房へ行く。
そのやり取りがおかしくてクスクス笑ってしまう。
松山くんの雰囲気の良さは、取材の時と変わらない。
柔らかく話しやすそうで見た目もイケメン。
だけど隆二くんの前だと、少し子供っぽい姿も見せるのね。
取材時よりも茶目っ気があるようにみえて、個人的には印象は更に良くなった。