ショコラ SideStory
なんとなく浅い眠りのまま迎えた翌朝。
母さんはタイトスカートとブラウスという仕事っぽい格好で朝ごはん作りに奮闘していた。
「おはよー、母さん。ねぇ、後で服勝手に借りてもいい?」
「詩子、おはよう。いいわよ? 何、デート?」
「うんまあ」
「ラインの綺麗なスカートあるわよ。色も若い子でもいいと思うわ。ベッドの上に出してくから後で着てみなさい?」
「うん」
手際はあまり良くないけど、母さんは一生懸命卵焼きを焼いている。
昔から家事はあまり上手じゃなかったけど、いざ再婚してそれをやろうとしているのは母さんの愛情よね。
苦手なことでも、好きな人の為にしようと思えれば愛?
あってるような気もするけど違う気もする。
「詩子、洗濯は頼んでいい?」
「もちろん。母さん忙しいんだから無理することないわよ」
好きな人のためになら、多少の無理くらい我慢するのが愛?
やがて廊下を歩く音が聞こえてくる。
親父にしては珍しいな。今起きてきたのか?
「おはよう、康子さん」
「おはよう、隆二くん」
洗濯機に洗濯物を取りに行こうとする背中に聞こえたのは軽いリップ音。
だからさー!
娘の気配があるうちはそういうの家庭でしないでもらえませんかね。
親父にしたら、スキンシップが愛なのか?
ああもう訳がわからない。
まじめに悩んでるのこそアホらしいって思うんだけど、一度悩みだしちゃったら頭から抜けないのにも困ったものだ。