ショコラ SideStory


「あ、あの」


困ったように、さくらちゃんがあたしたちを見るけど、あたしたちの間の空気は少しも良くはならない。

いつもなら、宗司さんはあたしの言うこと何でも聞くのに。
どうしてそんな責めるような目であたしを見るの?

お友達の家に行ったら、普通そんなすぐ帰ってこないわよ。
ばれるわけ無い。ばれる訳無い。


……でも頭の片隅では分かってる。

子供が知らない人といるのを、例えば噂ででも聞いたなら、正気でいられないほど親は動転するかもしれない。

自分に言い聞かせるようにばれる訳無いと思ってしまうのは、本当はそれが分かっているからだ。


なのに、あたしは折れることが出来ない。

悔しいような苦しいような変な感情が膨らんで、張ってしまった意地が消えない。


「でも、さくらちゃんの気持ち考えたらっ……」

「親御さんが悲しんだらこの子だって悲しいでしょ?」


諭すように言う宗司さんは、本物の先生みたいで。
あたしは酷く子供になったような気分になる。

宗司さんが正しい。
分かってるよ。分かってるのに。

そんな顔しないで。
あたしの気持ちも聞いて。

いつもみたいに笑って。

願うように見つめていると、宗司さんは二度目のため息を落とした。


「詩子さん。聞き分けないこと言わないで」


その言葉に、あたしの頭の一部が切れる。
< 119 / 432 >

この作品をシェア

pagetop