ショコラ SideStory
「あ、あの」
困ったように、さくらちゃんがあたしたちを見るけど、あたしたちの間の空気は少しも良くはならない。
いつもなら、宗司さんはあたしの言うこと何でも聞くのに。
どうしてそんな責めるような目であたしを見るの?
お友達の家に行ったら、普通そんなすぐ帰ってこないわよ。
ばれるわけ無い。ばれる訳無い。
……でも頭の片隅では分かってる。
子供が知らない人といるのを、例えば噂ででも聞いたなら、正気でいられないほど親は動転するかもしれない。
自分に言い聞かせるようにばれる訳無いと思ってしまうのは、本当はそれが分かっているからだ。
なのに、あたしは折れることが出来ない。
悔しいような苦しいような変な感情が膨らんで、張ってしまった意地が消えない。
「でも、さくらちゃんの気持ち考えたらっ……」
「親御さんが悲しんだらこの子だって悲しいでしょ?」
諭すように言う宗司さんは、本物の先生みたいで。
あたしは酷く子供になったような気分になる。
宗司さんが正しい。
分かってるよ。分かってるのに。
そんな顔しないで。
あたしの気持ちも聞いて。
いつもみたいに笑って。
願うように見つめていると、宗司さんは二度目のため息を落とした。
「詩子さん。聞き分けないこと言わないで」
その言葉に、あたしの頭の一部が切れる。