ショコラ SideStory
「……たわよ」
「え? 詩子さん?」
俯いたあたしに、宗司さんの声のトーンが弱気に変わる。
だけどあたしの方も、宗司さんとは逆方向に変わっている。
「もういい。分かった。さくらちゃんはあたしが家まで送ってくる。
どうせあたしの考えはお子様ですよ。親の気持ちなんてさっぱり分からないもの」
「詩子さん」
そうよ、しかも。
こんなすね方はちっとも可愛くない。
分かっててこんな風にしか出来ないのが悔しくて堪らない。
あなたはいつもあんなにヘタレなくせに、どうして今はそんなに大人のような顔をしているの。
壁を作らないで。
子供みたいなあたしを馬鹿にしないで。
あたしの傍から遠ざからないで。
「……宗司さんなんか、キライ」
こんなこと言うつもりじゃなかったのに、悔しさからか勝手に口をついて出た。
好きなのに、大好きなのに。
愛情という名の湖から飛び出す魚には、『キライ』なんて名前もあったのか。
よりにもよって今そんなひねくれた言葉がでてくるなんて。
じわりと涙目になったのを隠したくてそっぽを向いた。