ショコラ SideStory
「……じゃあ、これだけ頂きます」
そのうち、一つだけ貰う。
さくらちゃんといくちゃんママが、「えっ、それだけ?」って口走って、宗司さんも逆の意味で「えっ」と言った。
「詩子さん、マスターお金はいいって言ってたよ」
「だめよ。さくらちゃんは、ちゃんとしたお客様だもん。商品にはお金を頂かないと。今日のは特別サービスメニューなので、百円だけ頂きます」
「いいの?」
「うん。このお金はママがさくらちゃんにごほうびでくれたんでしょ? 残りは自分の為に使いなさい」
「うわあ。おねえさん、ありがとう」
喜ぶさくらちゃんと、何度も頭を下げるいくちゃんママとパパさん。
あたしと同じくらいの歳に見えるけど、彼女は立派なお母さんだ。
あたしたちも会釈してその豪邸を後にして、ふと隣を歩く宗司さんを見る。
彼は、さっきの堂々とした姿はどこへやら、ビクビクとあたしの方をうかがっている。
「宗司さんが来るなんて……意外だった」
「え? 何で?」
「あたし、キライって言ったから、追っかけてなんてこないって思ってた」
そういうと、意外そうな顔をする。
「あれは別に怒ってた訳じゃないよ?」
「うん。落ち込んでこないかなって思ってたの」
「あ、そっちか」
ははは、と笑ういつもの声。
とても安心できるのは、宗司さんがいつもそんな空気を作ってくれてるからだ。