ショコラ SideStory
* 

 玄関先からバタバタと物音がする。この騒がしさはきっと母さん。


「詩子ただいま」

「おかえり。相変わらず大荷物ね」


仕事用のカバンの他に、A4サイズの封筒が二つ、コンビニ袋が一つ。もうちょっとまとめて持てないものなのかしら。


「何買ってきたの」

「暑くなってきたからアイス。お風呂あがりに食べたいじゃない?」

「そういう食べ方してると太るわよ」

「余計なお世話」


まあでも、そういう食生活でも今まで体型を維持している母さんだから、きっと大丈夫なのだろうけど。


「あら、隆二くんはまだなの?」

「うん。今日は遅そうね」

「一緒に御飯食べたかったのに」

「じゃあ待ってれば。あたしはもう食べたし。二人分ちゃんと作ってあるわよ。今日は」

「そうね。ありがとう、詩子」


この二人も、なんだかんだ言ってラブラブだ。
親父も愛妻家といえば愛妻家か。


「ねぇ母さん」

「ん?」

「あたしが生まれた時、親父からなんか一言あった?」

「なに急に」

「いいから教えて」


意気込んでそう言うと、母さんは視線を泳がせて考え込んだ。


「……泣いてたかな、隆二くん。ありがとうとか何とか言ってた気はするけど、嗚咽混じりでよく分かんなかったわ」

「あ、そう」


なんだ。ロマンの欠片も無いな。

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